おばあちゃんの想いを・・・。
物が溢れかえって、物を捨てることが素敵な生き方のような事が言われる現代。
その僅か数十年前、私たちのおばあちゃんの時代。
足ることを知り、物を大切に思っていた時代、そう想像している。
当時、タンスと言えば、桐のタンスだったという。
桐は狂いが少なく、防虫性、防湿性に優れているから、大切な着物、衣類を守ることが出来る。
湿気が多いと、タンス全体が吸湿し、木が膨張して隙間を埋め、中の湿度を一定に保つ。
湿気が少なくなると、木が湿気を放出し、収縮して隙間をつくり、中の湿度を一定に保つ。
湿気が多い時、引き出しの開け閉めがきつくなったりするのは、このためだ。
きつくなるからこそ、湿気を遮断し、着物を守っている。
何も知らないと、ただ「使いにくい」となってしまう。
知らないってことは本当に怖い。
また、桐は比較的燃えやすい材だといわれている。
でも日本の伝統技術による総桐タンスは火災の延焼から中の着物を守ることができるという。
それは、まさに技術力。気密性が高くつくられ、中まで火が回らない。そんなことが多くあったそう。
そんなすべてが理にかなった桐タンス。
その時代、大切な嫁入り道具として親から持たされたことが多かったらしい。
それには、お嫁入りする人の、そしてその家族の色んな想いが込められていたに違いない。
そのお嫁入りしたひとが、私たちのおばあちゃん。
そんな桐タンス。
使わないが、捨てられず蔵や倉庫の奥に眠っている、そんな話も珍しくない。
でも、それはきっと、おばあちゃんの想いを、少しでも感じられる人が、まだ、いるからかもしれない。
今では居場所を失い、捨てられてしまう物をいくつも見ている。
次世代の人たち、そんな桐タンスを見て、そこに何かしらの想いを感じるだろうか。
知ることができるだろうか。
もちろん、言葉で伝えることが、まず第一。
でも、その想いをもって使われてきた物がそこにあればもっといい。
大切な想いをしょって使われたもの。そこには愛着がうまれ、想いも増幅していく。
だから、大切にしたいと、思う気持ち。
長くなってしまったが、先日、古くなった桐タンスを、使えるように直してもらえないかしらというご依頼をいただいた。今の生活になじんだ形で使えたらというお話だった。

釘を抜いて、金具を外し、釘穴を埋める。
時々見つける虫食い穴、欠け、などから、今までのこのタンスが使われてきた歴史を感じながら、
ひとつひとつどうやって直すか考えながらの作業だった。

このタンスを使い続けたい。姿は変わってもいいので、今のリビングに合う形でというお話もあり、洋風の取っ手をサクラ材で取り付け、全体に丸みをもたせた。
精一杯の知恵を絞ったけれど、肝心なのは、使われるご依頼主の方に気に入ってもらえるかどうか。
かなり、ドキドキだったけれど・・・、喜んでいただけた。本当にうれしい瞬間だった。

そして、またもう一台、タンスのリメイクのご依頼をいただき、取り掛かっている。
そこにあるキズや欠けに、また違った歴史を感じながら、頭を悩ませながらやっている。
またずっと使ってもらえるタンスにするには、どうしたら一番いいか・・・と。
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